以前、ある有名なピアニストの言葉を聞いたことがあります。
(どなたの言葉だったか、忘れてしまったのですが。)
その人はこう言いました。
「ピアニストは、あれもこれもできる人が、それでもピアノを選ぶべきだ。」
つまり、選択肢がいくつもある中で、それでも「これだ」と選ぶのがピアノだ、と。
一方、別のピアニストはまったく違うことを言っていました。
「ピアニストは、私にはピアノしかないと思う人がやるべきだ。」
これも、すごく真実だと思いました。
私は、この二つはどちらも正解だと思っています。
なぜなら、芸術というものは――
結局のところ、離れられないものだから。
選べる人も、選べない人も、
気がついたらそこに戻ってきてしまう。
好きなときもあれば、苦しいときもある。
時には距離を取りたくなることもある。
それでも、なぜか手を伸ばしてしまう。
芸術と生きるということは、
好きとか嫌いとか、
楽しいとかつらいとか、
そういう単純な言葉では割り切れないものを、
丸ごと抱きしめて生きていくことなのかもしれません。
清も濁も、全部含めて。
そして不思議なことに、
そんなふうに色んな感情を味わっているはずなのに、
口から出てくる言葉は、結局こうだったりします。
「ピアノが大好きなんです。」
そして今日も、私はピアノの前に座っています。
